日記?
中学時代のエピソードを日記風?に書きました。
将来の夢はプロ野球選手。甲子園に出てホームランを打つ。侍ジャパンの四番。
野球の為に中学受験をして、野球の為に毎朝6時に起きて、1時間半電車に揺られる生活。
全ては野球のため。
そう言い聞かせ頭を刈った。男子校に入った。休日の遊びも諦めた。
骨の髄まで野球に全BET。
青春を賭けた大ギャンブル。
いつかこの日々に感謝する時が来るんだ。
二塁ベースを回ったら歓声で埋め尽くされたアルプススタンドに、あの時の自分に、喜びのガッツポーズを捧げるんだ。
そう信じ弱冠12歳の僕は名門校の門を叩いた。
でも現実は想像を優に超えてきた。
挨拶練習なんて余裕だと思ってた。声出すの得意だし。
甘かった。何もかもが甘かった。
届いてるはず、なんて許されない。先輩に届かなかったらそれは存在していないも同然。
居残って喉を引っ張叩いて挨拶をする。
担任や数学の先生が横を通る。同級生もちらほら通り過ぎる。
自然と涙がこぼれ、声が霞む。
何してんだろ、俺。
今日も舌打ちされちゃった。
存在が、自分が消えていく感覚になる。
毎晩、僕は電車のライトに誘われていた。
こっちにおいで。君の事を受け止めるよ。楽になろうよ。
電車はそんな風に囁いてくる。
でも親や先生、近所の皆の顔がバリアとなってホームに押し返す。
鬱陶しかった。ほっといてくれよもう。
豆が破れ、血交じりの白みがかった手のひらで顔を拭う。
同級生が憎い。クラスメイトが憎い。全てが憎い。
なんで俺だけ。なんで俺だけこんな思いをしなくちゃならないんだ。
孤立無援。標高20メートルで遭難してる。
あんなに好きだった野球が今は大っ嫌い。
まだ一か月しか経って無いのに。甘かったな自分。
学校なんて楽しくない。
廊下で先輩に会ったら地獄。無視されるのに挨拶しなくちゃならない。
顧問を見つけたら終わり。マジリアル鬼ごっこ。
顧問が階段の下に居れば爆速で顧問より下に降りて「おはようございます!」
当然無視。
相談した担任。「秘密にするから」なんて安い言葉だ。
翌日の練習で顧問に呼び出され説教。
弱音を吐くな。辞めたきゃ辞めろ。お前は何の変わりにもならない。
休みもあってないようなモノで常に臨戦態勢。
俺、野球部向いてないな。
そう悟った所でもう手遅れだ。
はぁ...。
ため息ってこんな気持ち良いんだ。
そう感じた四月。
梅雨が始まる頃にはすべての呼吸がため息になっていた。
夏休み。
授業が無い分マシだった。
授業中寝てると野球部って理由で通報される。
え、こういう学校って授業寝てても大丈夫じゃないん?なんて思った。
やっぱり俺、甘かったんだな。
でも夏休みは練習だけだったからまだ耐えれた。
少し安心した。だってまだ俺野球は好きじゃんって気付けたから。
夏休みは終わった。
僕の野球部はAチームとBチームがある。
顧問は二人居るから実質その顧問の好みで決まると言ってよい。
チーム発表が終わった。
僕の名前は無かった。
どちらからも相手にされてない。
所属なし。Aチームに行く時もあればBチームに行く時もある。
これが特に応えた。
俺に居場所なんて無いんだ。
カシミアニットが似合う11月の朝だった。
見送る父の顔を見てしまい、涙がとめどなく溢れた。
「もう俺野球辞めたい。」
振り絞った本音だった。
今まで父には弱音を吐かなかった。
だって一番応援してくれて一番活躍している所を見せたい人だったから。
でももう限界だ。甘かったんだ俺。
「そうか。辞めてこい。」
父は笑顔でそう言い、僕を抱きしめた。
まだ父よりも小さかった体はすっぽり包まれた。
ここが俺の居場所なんだ。心からそう思えた。
「部活を辞めさせて頂きます。」
職員室でそう言った。
所属無しになってから毎朝6時半に顧問に今日のチームを聞きに行く日課もこれで終わりだ。
顧問は職員室だと人柄が気持ち悪いくらい良い。
だからこそ職員室での辞める宣言。それくらい僕の決意は固かった。
別室に連れてかれ、小一時間問い詰められた。
親に辞めろと言われた、なんて嘘をついた。
好きにしろ。
はい。
周りの反応が刺さった。
自己紹介であんな張り切ってた奴が、四六時中素振りしてたアイツが、塾のリュックにバット突っ込んで通ってたあの子が...。
逃げたヤツ。その目が痛くて僕は心を閉ざしていった。
これで僕の野球人生は一旦幕を閉じました。